トリクロロエタン：過去にオゾン層を破壊した物質

トリクロロエタン：過去にオゾン層を破壊した物質

トリクロロエタンとは？

トリクロロエタンは、かつて広く使われていた化学物質です。無色透明の液体で、甘い香りが特徴です。主に金属部品の洗浄剤、塗料の溶剤、ドライクリーニングの溶剤として、私たちの身の回りで使われていました。

二つの異性体とオゾン層破壊

トリクロロエタンには、構造の異なる二つの異性体、1,1,1-トリクロロエタンと1,1,2-トリクロロエタンが存在します。どちらもかつては洗浄剤や溶剤として広く使われていましたが、オゾン層破壊物質であることが判明しました。

特に1,1,1-トリクロロエタンはオゾン層破壊能が高く、1987年に採択されたモントリオール議定書において、生産と消費が段階的に削減されることが決定されました。その結果、大気中の濃度は減少傾向にあり、オゾン層の回復に貢献しています。一方、1,1,2-トリクロロエタンはオゾン層破壊能が比較的低く、モントリオール議定書では規制対象外でしたが、一部の国では自主的に規制が進められました。

1,1,1-トリクロロエタンの用途

1,1,1-トリクロロエタンは、その優れた溶解性、不燃性、低毒性といった特性から、かつては様々な工業用途で広く使用されていました。特に、金属部品の洗浄剤、電子機器の洗浄剤、塗料や接着剤の溶剤として、大量に生産・消費されていました。また、その揮発性の高さから、スプレー缶の噴射剤や、ドライクリーニングの溶剤としても利用されていました。しかし、1980年代後半にオゾン層破壊物質であることが明らかになり、国際的な規制が進められた結果、今日ではその使用は大幅に制限されています。

モントリオール議定書と規制

トリクロロエタンは、かつて広く使われていた化学物質ですが、オゾン層破壊物質であることが判明しました。 1987年に採択されたモントリオール議定書において、トリクロロエタンは規制対象物質としてリストアップされ、世界的に生産と消費が段階的に削減されてきました。 日本でも、オゾン層保護法に基づき、1992年からトリクロロエタンの製造が全廃されています。 モントリオール議定書の成果もあり、トリクロロエタンによるオゾン層への負荷は減少傾向にあり、オゾン層の回復が期待されています。

環境問題と国際協力

トリクロロエタンは、かつて洗浄剤や工業用の溶剤として広く使われていた化学物質です。しかし、この物質が大気中に放出されると、太陽からの有害な紫外線を遮る役割を持つオゾン層を破壊することが判明しました。オゾン層の破壊は、皮膚がんの増加や生態系への悪影響など、地球全体に深刻な影響を与える可能性があります。

この地球規模の環境問題に対して、国際社会は協力して対策に取り組む必要がありました。1987年に採択された Montreal Protocol（モントリオール議定書）は、トリクロロエタンを含むオゾン層破壊物質の生産と消費を段階的に削減することを目的としています。この議定書は国際的な取り組みの成功例として高く評価されており、国際協力によって環境問題を解決できることを示す重要な事例となっています。